low days

Kyoto Japan No Fun / PIANOGIRL vo. diary

九州遠征の記録②福岡編

5月28日 12:43 福岡博多Public Space四次元に着いた。天神のビル裏、赤黒く薄暗いライブハウス。店の前に居るのは濃和田だった。彼は昨日京都で仕事で、高速バスに乗って今朝福岡に到着。こうして無事合流出来た。元気な様子。すると店長のケイタさんも出勤してきた。いつも以上に声が枯れていて多分昨夜も遅くまで遊んでたんだと思う。1時間ちょっとをゆっくりする。四次元の下には階段があるんだ。そこが俺は好きだった。たまり場って感じがする。
リハが終わって俺たちは昼飯へ出た。俺とNJの強い要望で魁龍というラーメン屋へ。ここは7年ほど前から九州に来る度必ず寄っている店。地元の人も苦手意識があるほどの臭くて下品な豚骨ラーメンだが、俺たちはそれが大好きだった。No Funの皆にも食って欲しくて連れてきた。

入店。とんでもないおっさんが居た。物凄い声量でこちらの話を遮るようにひっきりなしに喋りかけてくる。どうやら創業者の店主のようだ。これまで来た時に出会わなかったのは何でだろう。’’ずんだれ’’とかいう麺の堅さがあるらしくそれをしきりに勧めてくる。昔は’’ずんだれ’’なんて聞いたこともなかったので最近出来た呼び名なのかも。俺たちは半ば強制的に’’ずんだれ’’での注文を強いられ、着丼するまでの間も永遠と’’ずんだれ’’についての講釈、他店批判、訳の分からんギャグ、を聞かされ続けた。俺たちは圧倒されながらも笑いをこらえるのに必死だった。NJは店主の演説をこっそり携帯で録音し始める。

まぁこんな無茶苦茶なおっさんの話を聞かされて鬱々としない方が珍しいかも。向こうのテーブルのお客さん達にも’’ずんだれテロ’’は容赦なく襲い掛かっていた。家族で来ていた彼らはあからさまに不快な様子。それにおっさんは気付くはずもなく''ずんだれ''は加速していく。なんとなく家族を助けるつもりで俺はおっさんと目を合わせてみる。すると捕食者が獲物を切り替えるように凄いスピードでこちらに突進してきた。殆どさっき聞いた話を再び同じ熱量で浴びせてくる。店に居た客殆どのうんざりって顔が俺にはたまらなく面白かった。

食ってる最中でも一向に構わずしゃべり続けてきては大声で’’ずんだれ!’’だの’’ずん!’’だの、明らかに飲食店として異常な景色だった。

スープは養豚場の砂みたいな味で身体に染み渡り、’’ずんだれ’’は異常者があれほど言うに値する逸品だった。やはりこの店に通い続けることを心に誓った。こういう狂ったおっさんのこと、なんで俺たちは楽しめるんだろう。本気の顔で本気の声量で本気だからに決まってるな。本気の異常は自分達に関係無いことじゃない。

 

17:15 四次元に戻った。18:00 イベントが始まる。他人同士が譲り合える狭い廊下、閉ざされた空間は血の中に居るみたいだ。出番が近付いてきて俺は一人になりたかった。ここでやる時はいつもぐるっとローソンの方へ行って駐輪場の段差に腰かけることにしている。行くと若い母親がベビーカーを隣にその場所に座っていた。少し離れたところに俺は座ろう。煙草を吸ってみる。まぁいつもと同じだ。死んでもいいと思えるか?一切の嘘無く真剣にやるだけだ。

イベントが終わる。セイダイから聞いたがケイタさんはこの日の為に博多の街へビラを撒いてくれていたらしい。俺たちがただ演奏しに行くだけなのに、その成立の為に自分の時間を使ってまで。音へのこだわりや仕事への姿勢、なにより若いバンド、スタッフ達への彼の叱咤激励はいつも見ていて胸に来るものがある。

四次元で少し飲ませてもらってから天神の街へ出た。石の犬というバンドのGt.エモくんがおすすめの中華屋へ連れて行ってくれた。エモくんとは初めて話したがキャップがよく似合う穏やかな印象の人。柔らかい喋り方だが自分のこだわりに強い意志を感じる人だった。

まぁこの辺りから記憶は薄れていって、朝方宿に戻るとNo edgeのマッキーと赤埼がベッドを占領していて俺はなんとか最後の力を振り絞りその隙間に潜り込んだ。翌日は全員酷い二日酔いだった。宿はゲストハウスで大部屋がある。そこでゆっくり宴会や朝食など企んではいたけれどやはりそんなことが出来るほど俺たちは上手に飲めないね。アマネはまた床で寝てた。台所の固い床で。今回の遠征、折角宿を取ったのに二日間とも布団ではなく床で眠った彼の顛末。長友は昨夜の中華屋に眼鏡を忘れたと静かなパニック状態。俺はコンタクトレンズを外してなかったことや脱水症状の一つか、視界が真っ白だった。

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11:53 宿を出て今博多の駐車場から機材車が出発した。目指すのは熊本。遠征最後の地だ。そうそう、宿があった街は天神の少し外れの古びた情緒のある所だった。小さな川が流れていて温泉郷のような風情すらあったので出発前に散歩しようと思っていたんだが、二日酔いで本当にそれどころじゃなかった。運転はNJ。タフな男だ。中華屋は閉まっていて眼鏡は回収不可能。長友は年長者らしくやはり静かにパニックしている。京都の歌唄いタカダスマイルが今日福岡でライヴだということを俺たちは知っていた。ほなタカダさんに拾いに行ってもらったらいいんじゃないですかね?誰かがそう言った。大発明を見聞きしたように皆一様に歓声をあげた。大先輩を平気でこき使おうとする発言が悪気もなく飛び出すこのバンドが俺は恐ろしくもなってきた。

熊本への道中、車内では昨日NJが録音したおっさんの''ずんだれラジオ''をデカい音で流して皆ずっとゲラゲラ笑ってた。''ずんだれ''という台詞の箇所だけをトリミングしていって携帯のサンプラーアプリに落とし込む。リズミカルに聞こえてくる''ずんだれ''の威勢は素晴らしかった。俺は笑い過ぎて涙が止まらないほどだった。おかげで視界が復活していく。皆で大爆笑が起こると濃和田やラモの笑い方がおもしろくてまた笑ってしまう。やっと酒も抜けてきた感じもする。

''ずんだれ''とは、だらしがないという意味で、久留米の昔の言葉らしい。おっさんは小麦の旨味を存分に引き出す為には柔らかめが良いと言っていた。芯のある美味しい柔らかめの麺、それが''ずんだれ''。

真剣に麺を湯がけばただ柔らかいだけの麺にはならない。その言葉だけは俺は好きな感じがした。

熊本には少しゆっくり出来る時間で着くだろう。皆んな疲れているはずなのに爆笑は一向に無くならないまま、最終日の午前中の速度は良いものだった。

また更新する。