low days

Kyoto Japan No Fun / PIANOGIRL vo. diary

韓国ツアー記録 2日目 ソウル

14日 9:30起床。古いホテル、冷たい感じの窓枠。外は重たい雨。疲れはあるが熱は少し下がった。今日は大丈夫、そんな気がした。

煙草を吸いに表に出たらキスン氏とSTONELEEKの3人が怪訝な顔で道路に立っている。キスン氏の車に荷物を詰んでいたらトランクのドアが開かなくなったという。キスン氏はマイッタって顔。1分待ってくれ。そう言って彼は車で走っていった。2~3分して戻って来て、再びトランクを開けようとするが、開かない。
雨は強くなってきた。
5分待ってくれ。次はそう言ってまた車で出ていく。俺はSTONELEEKのドラムbetchさんとコンビニへ行った。朝飯とコーヒーを買う。虫の缶詰があるよ、とbetchさん。茶色く味付けられた芋虫。韓国では有名らしい。ホテルに戻ると車も帰ってて、トランクも無事開いてた。
ほとんど眠ってないであろうキスン氏の青白い顔も少し嬉しそうだ。しかしすぐに今度は運転席の扉が開かない!と言い始める。

STONELEEKはキスン氏の車で。No Funは電車で。今日はこれからソウルへ移動だ。VICTIM RECORDSが始めたライヴハウスclub VICTIMの営業初日。こけら落とし公演ってやつ。総勢12バンドの長い夜が待ってる。

ホテルを出る頃に雨は止んでた。
駅まで歩く途中、昨日共演だったHalf BroというバンドのBass.スーチョル氏が話しかけてくる。
シュウ、よく眠れたか?
うん、おかげさまで。
10人のNo Fun旅団に案内役でヨンヒ君、ゴ君、スーチョル氏、そしてSink to Riseのボーカル(名前を失念)を含めた14人はがらんとした仁川駅から電車に乗った。途中大きな川に架かった橋を渡る。ゴ君が俺の家はこの川の先にあるんだと教えてくれた。
It's so poor apartment.

彼はそう付け加える。俺も玉屋ビルでの暮らしを思い出した。
スーチョル氏と色んな話をした。
韓国の兵役についてとか。電車内のテレビでは竹島に関するニュースが流れてる。青や黄色でTRUTHの文字。どの国にもそれぞれのTRUTHがあるね。
末端の現場。顔を合わせて煙草を一緒に喫んだり、乾杯をしてみたりな。目を見て話せる位置。言葉が聞こえる距離。そういう場所で俺たちは出会わなくちゃならない。
途中の駅でSink to Riseのボーカル氏が降りた。日本語でサヨウナラと言いながら。韓国の電車、時間帯もあってかこの旅でやっと心地を付けて休めた気がした。座席のクッションは尻が疲労骨折しそうなほど硬かったが。

電車はソウルに着く。夜になれば街は豹変するよ、と。どこからともなく。そして眠らないんだ。13人は繁華街を列を成して歩きclub VICTIMに辿り着いた。看板の前で写真を一枚。新しい場所が産まれるって、勇気をくれる感覚がある。キスン氏をはじめVICTIMクルーは飲んだくれていた昨日と打って変わって皆真剣な眼差しだった。少し老けたようにも見える?
徐々に演者やお客さんが集まってくる。入口に溜まることが許された通り沿い。でかいゴミ箱は吸殻とゴミでもういっぱいだった。ライブハウスはまだ内装も途中でバーカウンターも無かった。隣のコンビニは大儲かりだろうね。共演者にイジュンという名の女の子がいて日本語が抜群に上手かった。聞くと大分県の大学に留学してたんだと。少し田舎だったと恥ずかしそうに語りながら。彼女のおかげで助かった場面も多かった。

16時頃にイベントは始まる。CASSってビールが美味い。おもちゃのような青いラベルで子どもがロケットに似せて跨りそうだ。多くの韓国人がそれを仲間と飲んでた。見習って俺たちもそうする。
パンクの化粧をした女が俺について来いと言う。もう何度目か分からないコンビニ。
あなたにビールを奢るわ、4本買おう。4本買うと安くなるから、仲間と分けたら良い。
ありがとう!君は今夜演奏する?
さっきすぐ近くのclubでライヴをしてたの。終わったから遊びに来た。
彼女はそう言ってプルを開ける。俺も同じようにする。
深く酔った男は終始ご機嫌に喋ってる。ジョニーとかいう名前だった。カップ麵を買ってきて蓋で器用に小皿を作って分けてくれる。これが韓国の伝統的な食い方なんだ。眼鏡が半分ズレ落ちながら彼は教えてくれる。

バンドの演奏が進んでいく。俺も良いペースで楽しめた。曲の間でわざわざ練習してきたであろうカタコトの日本語を喋るバンドはRUM KICKS。綺麗に鋲が打ち込まれたジャケットを着てoiな感じ。
人々は身体を揺らしたり外で煙草を吸いまくったりする。
今朝降った雨はもう遥か。水たまりに吸殻。空き缶と仲間意識。表通りは狭くて騒がしい。
不思議だったのはフルスモークの高級車ばかりが通るのにどの車からも一度もクラクションを聞かなかった。どれだけ俺たちが邪魔でも彼らは決して鳴らさない。そのうち車に気付いた奴が羊飼いになり、多分誰もが話を遮られた気にもならない。

No Funの演奏が終わった。精一杯の歌と演奏で感謝を残したつもり。そして俺個人としては旅が終わりそうな寂しさ。短い旅だった。ホテルのチェックインは23時からだった。打ち上げはVICTIMでやるという。俺とtedは先にチェックインを済ませにホテルまで歩く予定。するとお客さんの一人がタクシーを手配してくれた。彼女の手首には俺と同じクジラの刺青。彼女のがだいぶ大きかったので母鯨だなんて言ってるとタクシーが来た。

ホテルに着いて料金を支払おうとすると不愛想な運転手が早く車から出ろとジェスチャー。どうやら鯨タトゥーの彼女がもう支払いを済ませてくれていたようだった。打ち上げに戻ったら礼を言わんとな。何から何までありがとう。シャワーを浴び荷物の整理をして再びホテルを出る。

夜のソウル。クラブが多く並ぶ通りは大音量の騒がしさだった。その中で俺たちはまんまと小さき者だった。スーパーで買った白ネギが一本カバンから飛び出したまま家に帰る時のような、妙に所帯染みた肩の巻き具合でネオン街を進む。

日本にいても京都にいても、どこか喧噪の横で無表情な自分がいて、その度に混沌や炎って俺には実はとても静やかなものなのだと再認識する。静けさの中に居たいから叫び暴れているってことをそろそろ俺は認めなくちゃならん。今まで出会った派手な奴らも大抵そうだった。俺や彼らはラジオだ。家族が寝静まり自分ひとりだけが息する世界で聴こえてくるラジオ。今夜、交差点の青白い光の中に溶けそうだった。なにぶん、腹が減ってくたばりそうだった。

 

今、日付が変わって22日の午前一時。一週間前は韓国に居た。京都はこの土日で一気に気温が下がった。寒くて今夜は焼酎をお湯で割って飲んでる。さっき押し入れの段ボールからモヘアやフリースを出してきた。昼間は家の掃除をしてtoeの保育園の手続きやこの先控えてるイベントのチラシを作った。韓国初日に携帯の画面が反応しなくなり、ろくに文字も打てない状態。
旅の記録は記憶だけが頼りだ。

 

15日 9時頃の起床だったと思う。身支度を済ませたらホテルをチェックアウト。
今回全ての宿がキスン氏の手配だった。おかげさまで本当に良く休めた。全ての移動や荷物の運搬がVICTIMクルーの協力の下にあった。後にSTONE LEEK福来さんにどうすれば彼らにお礼が出来ますか、と尋ねたところ
韓国から日本に来るバンドによくしてあげる、それだけを彼らは望んでるよ、と。

 

皆と待ち合わせる駅まで朝のソウルを20分ほど歩く。
昨夜のゴ君の話では徒歩10分の道のりだったんだが、もうこの感覚の違いには慣れていた。
朝の空気を深く吸う。キャリーケースと小石。駅に着いてtedは甘いパンのようなものを買って食う。俺は熱いコーヒーを飲む。しばらくして無事皆と合流出来た。ゴ君とスーチョル氏は最後まで付き添ってくれるようだ。
仁川空港行きの電車に乗り込む。車窓を流れるビル群と広大な埋め立て地、海も見えた。電車が何度もクラクションを鳴らす。なぜ鳴らしているのか聞くとキバノロという動物が線路に入ってくるので追っ払ってるんだと。キバノロは長い牙を持つ鹿のような見た目で、絶滅危惧種だという。11月に東京でやる不時奏のチラシはキバノロのデザインで決まりだ。

空港の白い光と奥行きで、集合写真は未来のような遠い過去のような、不思議な写り方だった。さようなら。俺たちは日本に帰ろう。 機会をくれたSTONELEEK、No Fun初の海外遠征で様々な手配をしてくれたNJ。そしてVICTIMクルーに最大の敬意を!

荷物の預けも終わりひと段落ついた。見ると、行きの空港でひと悶着あった女二人組を発見した。彼女たちも二泊三日の韓国旅だったんだろう。離陸まであと1時間ちょっと。俺たちはCASSビールを飲み始める。一面ガラス張りで真っ青な空だった。

 

同日19時 GROWLYに着く。二階のスタジオではライヴをやってる。仲間のイベント。友達や先輩後輩、知った顔が集まってる。京都は自分が知っている街だった。GROWLYの味気ない壁や埃だらけの階段に仲間達と当たり前のように居る。こんな場所を無くしてはならないと強く思いながら阿呆みたいに騒いでやった。

翌朝、湖岸道路を車で走っている。tedの実家に預け面倒を見て貰ってたtoeを迎えに行く。彼は沢山食わしてもらって少し大きくなってた。よく笑うようにもなってる。俺はこの日で33歳になった。家に帰る途中いつも学生がカヌーの練習をしてる湖のほとりに車を停めて一本吸いに出た。またひとつ、旅が終わった。少しの貯金と思いつきで様々な人間と出会える。いつか彼らを忘れても、俺が忘れられても、写真を失くしても、聴こえなくなっても、何の気味悪さも無い。俺はもうこの記録を書き終わらないと。音楽と生活が待ってる。自分の中に燃え続けるものは何だろう。一体それは何の為で、熱くて静かで真っ白な頁が続く分厚い本だ。刻めど白くあれと願う燃える本だ。

韓国で髑髏の形をした小物入れを買った。
さっき中を開けると何故か柿ピーが大量に詰め込まれてた。ひとつ食ってみるが酷く湿気ていて不味い。台所に吐き出したがまだ歯の隙間に居る気もする。
まだ他に書き残したいことがあるはずなのに、俺は柿ピーがどうのこうの言ってる。

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一枚目は空港に向かう車窓。

二枚目はclub VICTIM前。