low days

Kyoto Japan No Fun / PIANOGIRL vo. diary

無題

玄関扉が開いてよく通る大きな声がする。すみませんー!俺は二階で眠っていて、聞こえないふりをする。すみませんー!!二回目も俺は無視。冷えてきた朝に寝不足もあってイラついてくる。すみませんー!!!三度目の声が聞こえると同時に飛び起きて下に駆け降りると、玄関にヘルメットをした赤ら顔の男が立っていた。何?俺はあからさまに不機嫌な調子で言う。工事で今日の午前中ガスが止まるのでその報告です。男は言う。それも玄関でする会話にはそぐわぬ声量(最初に書いたように男はよく通る声質なので余計にうるさい)で言う。俺は一度ため息を吐いて、答える。(男に静かに話させる為、俺はわざと小さな声で喋る) それは前に一度聞いたし、昨日はその旨が書かれた手紙まで置いてあったから分かってるよ、いちいち起こさないで勝手にやってよ。男はこれまでより一段とデカイ声で、そうですか!すんまへんなぁ!と。俺は彼が扉から出て行くのを待たずに背中を向けた。ガスが止まることは知ってたので風呂も昨夜のうちに入っておいたし、朝飯も食わないつもりだった。全部分かってた。のに、寝起きで知らんおっさんの馬鹿でかい声。全く気が滅入るね。おっさんも仕事熱心は良いが判断能力が欠けていたらつまらんよ。まぁ実はおっさんが泥棒だったとして、この家の生活パターンや間取りを把握する為こうして何度も家を訪ねていたなんていう結末だったら面白かった。んなことを考えていたら段々と目が覚めてきた。出勤までまだ5時間ある。

この行から11月だ。今夜仕事が終われば新宿へ向かう。ツアーは折り返し。折れた肋骨は大分マシだがライブをする度にまた痛み始める。その繰り返し。上等上等。

 

 

無題

俺が追い続けたバンドの理想像に最近やっと手が触れてきた感覚がある。各パートそれぞれに自分の内から出ようとする音があり、それを確かめ合うようにして一つの音像が出来上がる。周りの音をよく聞くとそれは呼吸や表情、感情表現の最たるものであることが分かる。分かると楽しい。空気、瞬間、その全てが手に取るように分かる。音を聞くというよりは、呼吸を感じ取るという表現が正しい。

10月23日 13時頃 玉屋ビルに居た。seiryuが風呂に入ってる間俺は部屋にあったGN'Rの本を読んでいた。アクセルローズの苦悩?孤独?好き勝手に書かれている。リズムという名のお香を焚いた。上賀茂神社では何かイベントをやっているようで、歌謡曲が聞こえてくる。ビルは何処を歩いても変わらず極彩色の青春だった。図書室(5階の一室。自販機があり、開かれたスペースになっていて住人が寄付した本で埋め尽くされている。夏の間、蚊取り線香の煙が充満したこの部屋で院生は勉強、俺は作詞、など思い思いの作業を皆でしていた部屋を俺はこう呼んでいる)に入って缶コーヒーを買って、佇んでみた。昼だったがこの部屋は夕方だった。窓からの景色が描かれた絵が壁に掛かっている。俺がいた頃には無かった絵。このビルで暮らしたのはほんの数年前だったが、もう随分前のことのように感じる。

福岡の記録

高速を降りたのが14時とか、その辺だったと思う。俺は酷い二日酔い、虚ろな視界にはフロントガラスを打つ雨。雨だね、と俺。今日は一日降るらしいよ、と運転手。朝6時に京都を発ち、途中宮島辺りのSAで俺は目覚めた。視界は真っ白だった。小便をして龍(今回帯同したカメラマン)と少し辺りを散歩する。海が見えた。海も俺には真っ白だった。白いガスが出ている?俺は皆んなに聞いたが、そんなことは無いと言われた。出発の時間まで飲んでたせいで目ん玉がぶっ壊れたんだと思う。福岡に着くとまず俺とNJお気に入りのラーメン屋へ。昔と変わらず美味かったが俺は余計気分が悪くなる。それから風呂屋へ向かい2〜3時間の休憩を取ることにした。この風呂屋は昔から福岡遠征の度に休息を取った所で俺には馴染みが深い。最近刺青を増やしたファイターは腕にタオルを巻いて入浴してた。透けて見えてたけれど。風呂から上がって畳の休憩所で俺は横になった。まだ身体は怠い。目の霞みは無くなっていた。ライブの日体調が悪い方が俺は好きだったりする。どうせ始まる頃には気力が勝って万全な精神力が整う。あれこれ身体のケアなんかしなくても俺はやってのける。1時間ほど眠って、ファイターが起こしてくれた。煙草を吸う?吸おう。すっかり外は日が暮れて、世の中は一日の終わりへ向かおうとしていた。が、俺たちは今目覚めた感覚の中にいた。好きな街だ。案の定、ハコに着いた瞬間に俺はもう絶好調な気分だった。

この日、俺の中に何か説明のつかない感情があった。葵とやる最後のライブだったからか?おそらくそうだろう。何からも逃げたくなかった。全てのバンドの演奏を見て、俺はこの夜に確かに存在する必要があった。他でも無く自分の為にそうした。もう長い付き合いになる後輩が唄っていた。これまで何十人ものメンバーが入れ替わり、それでも頑なにやってきた男。俺の記憶が正しければ彼は、生い立ちも壮絶なものだった。そんな彼がこの日唄う歌は俺の胸を打った。今までの野放で無差別な攻撃性に頼ったものじゃなく、確かに地を足で踏む音だった。凄く良かった、俺は彼にそう伝えた。

帰りの車は静かだった。俺は夜が明けていくのをゆっくり眺めていた。なぁ、高速道路は続いていく大河で。俺たちは流れ流れて。目指す場所なんて無いが、辿り着くことが出来る。宮島で見た真っ白な海。京都は今朝その中に居るような朝。別れに相応しい感じがした。

10月26日 福岡遠征の記録として。

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スタッフとして約7年活動を共にしたaoiが今日、バンドを去る。

大阪のライブハウスで客として見に来てくれていた彼女に話しかけたのは約7年前だった。聞けばローディー(バンドに関する機材やステージの補助的役回り)の専門学校に通っていると言う。そうか、もし良かったらピアノガールでスタッフをやってくれない?俺は唐突に言ったと思う。まだ彼女のことを何も知らなかったけど、その落ち着いた佇まいに何となく惹かれていたんだと思う。それから今日までほぼ全てのライブに帯同、ステージ補助から長距離運転や物販販売に至るまで、あらゆる裏方仕事をこなしてくれた。俺はこんな人が支えてくれているんだと皆んなに知って欲しくて、よくライブでもaoiのことを喋ったし、面倒な絡みもよくした。ある冬には彼女の専門学校の卒業式をメンバー全員で祝いにも行った。学校を出てからも彼女はアルバイトをしながら無償のスタッフ業を続けてくれる。俺の唾や汗でぐちゃぐちゃになったマイクのグリルボールを毎回洗ってくれていた。ベロベロになって眠る俺たちを乗せて東京京都間を何度もたった一人で運転してくれた。毎回のセットリストや対バンをノートに書き残してくれという俺のお願いを本当にずっと、何年も書き続けてくれた。ステージ補助としては転換の諸々は勿論、ライブ中にあれほど動けるスタッフをインディーズ界隈で見たことは俺は無い。俺は昔aoiに言ったことがある。よっぽどのことじゃないとステージに入って来なくていい。多少のトラブルは自分で対処出来る。マイクが倒れたり、それもそれで俺は楽しいんだ。ステージに入るなら俺たちではどうしても無理なことを見極めて来るんだ、と。そして彼女は本当にその通りに動いてくれたと思う。三年前、前メンバーが全員辞めた時の最後のミーティングでのこと。俺は正直aoiもバンドを去ると思っていた。内心本当に恐怖しながら俺は彼女に訊いた。葵はどうする?

「私はやる。まだ私に出来ることがある気がするから。」

返って来た言葉はこうだった。それも俺の目を睨みつけるような、力強い瞳で。あのaoiを俺は忘れないし、今日まで俺がやってこれた勇気の源だ。現メンバーであるNJ、豪、ファイターにもそれぞれに彼女に助けられた事がきっとあると思う。

脱退の理由は東京で仕事を見つけたというもの。彼女が新たにやりたいことを見つけたということ。ひと月ほど前、夜中に電話がかかって来て俺はそう聞いた。止めることなんてどうして出来ただろうか。自分で見つけ、選び取り、その道を進むということは俺がずっと歌って来たことであり、俺自身そうしてきた。俺たちにはそれぞれの曲がり角がある。角を曲がり別れるその時まで全力でやったなら、さよならは悲しいことじゃない。本心では悲しい。当たり前だ。でも悲しくない。

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今福岡から帰る車の中でこれを書いている。もう夜は明け切って、最初のファイターの運転からNJに交代し兵庫県あたりを走っている。aoiは一番後ろの席で眠っているかな?俺は助手席でこの旅の終わりを想い、酒も抜けてきた。昨夜も良いライブだった。バンドは続いていく。人生だもの。そこに関わった人達の一人一人が元気でやってることを俺は祈っている。もしこれを読んだ人がaoiに会うことがあれば一言、お疲れ様でしたと言ってあげて欲しい。

無題

21日の昼に書き始める。昨夜は新神楽でDAM主催のイベント。昼間NJはW.H.C.Ba.のGravityの結婚パーティーへ参列していた。機材車で会場まで迎えに行く。それから夕陽を追うようにして大阪を目指した。俺は自分の出番までに缶ビールを一本だけ飲む。吹きさらしの階段で煙草を吸っているとちらほら知った顔が話しかけてくる。今日はありがとうね。楽しみにしてるよ。ああ。飲んでる?飲もうぜ。好き勝手に楽しむ者、何かしらの事情で暗く塞ぎ込む者、話しかけて欲しそうな奴、黙々と飲む奴、携帯から目を離さない奴、色んな奴が居た。当たり前だ。いつだって思っている。場所はこんな人達で作られている。街で会ったら嫌いになりそうな奴も、此処では面白おかしく見える。同じ音を聞いてた。同じ酒を飲んでた。俺たちはそれだけで楽しかった。わたし地獄から来ました。そうかい、そりゃいい!今日はテキトーにやりなよ?

 

夜港

可笑しなことに、鳥の鳴き声を聞くのは明け方が多い気がする。昼間も鳴いてるはずなのにね。全ての細胞が疲れ果てた朝、聴覚だけが研ぎ澄まされているのか。10月20日朝6時半、書き始めた。さっきまで深夜喫茶にseiryuと居た。帰り道の数十分で夜が終わった様子だ。小雨もある。少し寒いので毛布を掛けて眠ることにした。すると猫が腹の上に乗ってこちらを見てくる。目を合わそうとすれば逸らされるんだ。

仕事が終わってSOOZOO Gt.jasmine、Vo.seiryuと合流し、三人で桂の風呂屋へ行った。(紅一点のDr.桃歌は別用で来れないとのこと)風呂屋は京都では珍しいちゃんとした温泉だという。うん、確かに湯は少し塩っぱくて肌がぬるぬるする。湯の温度も丁度いい。東京の風呂は熱過ぎやしないか。ここは京都らしいというか、その適温にアホみたいな顔をして浸かっていた。俺たちは色々なことを喋った。が、やはり長風呂が苦手な俺がそろそろ出よう、と切り出す。帰り際階段で、自分はバンドをやっていて今度ピアノガールと一緒にやるから宜しく、と男に話しかけられた。俺は知らない男だったが、こんな所で出会うのは妙に面白い感じがした。うん、宜しく。楽しみなことが増えたって訳。それから飯を食ってjasmineを家まで送り届け、俺とseiryuは深夜喫茶へ。

一杯目は常温で出してくれと店員にお願いする。多分、淹れたてを冷ましてくれていたんだと思う、コーヒーが来るまで随分長くを待った。常温で飲むと本来の味が分かりやすい気がするんだ。俺たちは色々なことを喋った。面白かったのは''意識''の話だった。俺は店内を背に壁の方を向いた席に座り、seiryuは反対に壁を背に店内を見渡せる席だった。かれこれ4時間ほど店にいたが、俺は他の客の会話や人の気配にやたら意識が飛び、それを会話のネタにしたりした。彼は俺に言った。客の会話なんか全く気にしてなかった、と。(二杯目は熱いやつを頼んだ。やはり熱いコーヒーの方が美味かったね)そこで俺たちが思うに、壁を前にした閉鎖的な視界(この場合は俺の席)では無意識のうちに聴覚が研ぎ澄まされ、不可視の背後世界を想像したり気配に敏感になるのではないか。そしてseiryuの席のように店内を見渡せる開放的な視界では、目に飛び込んでくる情報が多過ぎて、逆に自己の内なるものへと意識が行く。現にseiryuと俺ではお互いが切り出す会話の内容に違いがあったように思う。簡単に言えば俺は他人の話、彼は自分の話。これは俺たちにとって面白かった。深夜喫茶は馴染みのない街にひっそり建っていた。薄暗い厨房と広い店内。もう客は俺たちだけだった。俺たちと隅っこのアップライトだけ。くすんだ茶色をしたそれを弾かせてもらえないか、と店員に言おうとした瞬間他の客が入店する。俺は黙ってコーヒーを飲み続けることにした。

 

無題

我が家にテレビは無い。俺は週に一回ほどのペースで近所の飲み屋へ行くが、それが週に一回ほどのテレビを見る時間って訳。薄汚いジジイ達とスポーツや報道を見てあーだこーだ言いながら呑むんだ。酔っ払ったジジイが俺の妻のオッパイを触ったりするのを俺と妻で笑いながら呑むのさ。ふと、メディアに騙されてやりながら俺は杯を進め意識を飛ばしていく。ははは、本当のことなんて何処にもあるわけない。誰かが説明してくれる訳がない。ましてやテレビなんかに真実は無い。それなのに如何にも正義って面した偽善者共がテレビの向こうからこちらに笑いかける。俺も笑い返す。でも違った種類のやつ。嘲笑。それがたとえ仕事であろうと俺はその選択に心からの軽蔑を贈る。だってさ、神妙な面持ちで死や悲劇を報じたすぐ後に、突然間抜けな薄ら笑いを浮かべて動物園の人気者がどうだって言い始める。あの役者ぶりは何だ。嘲笑を通り越して恐怖を見る。コメンテーターとかいう機械共も酷い。わざわざ喋る機能を付けてもらっといて、ろくなことを言ってるのを聞いた試しが無い。制限があるなら最初から人前で喋ろうとするな。

昔、騒音オバさんをキチガイだと言い放って追放されたジジイは良かったな。言葉が良かったんじゃなく、その溢れ出る怒りが良かった。卑怯じゃない姿勢だった。卑怯な連中は綺麗な身なりで、今の日本を背負っています、ってな顔。吐き気がするね。顔面に唾を吐きかけてやりたい。

何も感じない言葉。何も感じない表情。いや、違う。嘘を感じる。あんたらの言葉や表情には確かな嘘を感じる。でもどうしてだ?胸糞悪いんだが酒は美味い。困ったことに俺もどうやらmedia controlされてるようだ。ははは。笑えてくるね。こうやって俺たちは何も考えなくなる。異様な光景もいずれは平凡な風景になる。きっとそうなるよ。世の中への違和感を感じなくなって来たら病気の合図だ。

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いつも脱ぎ散らかしてしまうから写真を撮ってみた。すると、どんなだろう。俺は、どんなだろう。