low days

Kyoto Japan No Fun / PIANOGIRL vo. diary

無題

静かに屋根を打つ雨は今夜の俺に何か話しかけてくるようだった。明日は大型の台風が直撃するらしい。9月29日の夜だ。飼い猫の大きな方がメスのGingerで、チビがオスのOlive。Gingerは滅多に甘えてこないのに、この日はずっと鳴き声をあげてはすり寄ってきた。もしかしてまた発情期か?今はとにかく二匹で騒がしくやってる。それを見る俺は布団で一歩も動けない。28日の渋谷のライブで肋骨が一本折れた。あー糞みたいに痛い。渋谷を出たのは深夜2時頃だったか。俺は打ち上げで焼酎の水割りを一杯だけ飲んだ。機材車の一番後ろの席に横になる。車が揺れる度、肋骨に激しい痛みが走る。地獄のハイウェイとはこのことだった。京都に着いたのは8時頃。小雨降る灰色の朝。どうってことない朝だろうが、俺たちからすれば旅の終わりの朝。そのまま俺はシャワーを浴びて病院へ向かった。8番目の肋骨が折れてるね。レントゲン写真を見ながら医者が言う。まるで深刻さの無いモノ言いに俺も力が抜けてくる。そうですか。安静に?ツアーはどうなる?中年の看護婦と目が合うが、すぐに逸らされる。あーだこーだ言っても結局は時が経ち骨がくっつくのを待つしかなかった。病院の窓という窓を控え目に雨粒が打ち、俺は午前中の何とも言えない気怠さの中に居た。天気も糞だが、少し思い返す。渋谷で俺は久しぶりに涙が溢れてきた。それは突然少年のライブだった。他人のライブで泣くなんつーことはもう何年も無かった。別に特別な感情を持つバンドでも無かったしね。でも俺は胸を熱く焦がされた。心がぼうっと燃えてくるのを感じた。まぁそれだけ。punkは表現出来る奴と出来ない奴に分かれる。偽物はすぐにバレる。まぁいいんだ。偽物でもいいのさ。もう取り立てて騒ぐようなことは何も無い。俺には続けてきたこのバンドとプライドと我が家がある。そしてそれを人生単位で表現していくことだけに興味がある。

30日 23時。雨風は少し強いが、被害が出るほどでは無い。骨折のせいでほとんど寝たきりだ。身体が痛い。今はリビングに降りてきてtedと話している。机の上には友達に送る小包、支払いの催促状なんかが散らばってる。猫二匹は俺たちの周りをウロウロして、相手をして欲しそうな顔でこちらを見ている。tedがキャラメルを食いながらコーヒークリーム粉を湯で溶いて飲み始めた。そんなもの美味い訳がないのにウマイウマイと言って飲む。変わったヒトだと俺は思う。

10月1日 あと20分ほどで日付が変わる。さっき一本の電話があった。ある一人の仲間からだ。自らの道を決めたという内容のもの。別離さ。覚悟はしていたがこんなにも沈むような思いが襲ってくるとはね。晴れやかな門出に爽やかなサヨナラを、俺はいつもそう思ってやって来たはずだったが。身近な奴になるとまるでダメだった。落ち着けよ俺。旅立ちにはエールを。夕方近所のスーパーまで買い物に行ってみた。ずっと横になっているので身体が軋むように痛い。骨も痛むが、少し散歩して身体を慣らしたかった。晩飯の食材を買って、暮れていく通りをtedと歩いた。この通りはこの時間、様々な人の帰り道だった。

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写真は東京へ発つ時に撮った一枚。見ての通り俺たちの機材車はトランクが開かないので通路にアンプを置いて移動している。