low days

Kyoto Japan No Fun / PIANOGIRL vo. diary

ぼうっとオレンジ色に浸る部屋で書き始めた。夏がすぐ其処まで来ているというのにこの肌寒さはどうしてだ。

異常は留まることを知らない。気象も、人間も。君は人生を劇だと思うか?俺はそう思う。舞台の上で果てしない時間を掛けて演じている。その中途では、俺たちは気付けない。もしもどうして気付いた彼は悠久なる静寂の中へ踵を返すだろう。その前に有るとすれば演じるエネルギーが切れた時。それはまず一度目の死。

演じている感覚など当然無い。当たり前だ。飯は不味かったり美味かったりするし、眠ければ寝よう、涙が溢れたこともある。笑ったとして、心から笑った?笑ったさ!そもそも生まれ落ちた時から自分という役を演じているのに、舞台が進むにつれ嘘を上塗りする。見栄、虚栄、妬み、嫉み。俺はもう嘘吐きは相手にしないことにした。怒りは岸辺に溢れ返り、行く宛てを無くしては諦念へ変わり果てる。どうしようもねぇなら、どうしようもねぇよ。

22日午前中、海州とデザインの打ち合わせをする。新しいTシャツやグッズのそれ。あーだこーだ言いながら作業を続け俺はコーヒーを二缶飲んだ。音を録り終わり、やっと今作(ここ数年の俺自身と言い換えてもいい)がどんな表現をしようとしているのか分かってきたような気がする。身体の内から出てこようとしている。俺のコントロールじゃなく、至自然な動き。

明日23日でGingerがうちに来て2年になる。去年の誕生日プレゼントは見向きもしなかった。今年は喜んでくれるだろうかと、今思っている。悩ましい猫だ。

今年も空梅雨なのか、さほど降らない。アルバムレコーディング最終過程にさしかかり日々、朝になって帰る。

今年頭から始めたアルバムレコーディング。隙間を縫うようにしてやり続け、やっと昨夜最終ミックスが終わった。6月13日。

昼の12時に開始、家に帰ったのは朝6時。11日も16時から朝までやったと思う。

俺のこだわりやアイデアをエンジニア朝倉氏が形にしてくれる。長時間の作業で疲弊した耳をさらに酷使して、0.5dBの差に一喜一憂する。満足の連続。都度、ニヤリとする。

俺がつきっきりでディレクションし、ファイターと豪は常にふざけて場を和ませてくれる。NJはおそらく俺たちに信頼を寄せてくれていて、自分のやるべき仕事を優先し、夜から参加するという形だった。

朝倉氏はついやり過ぎてしまう俺たちにいつも冷静な判断をくれた。でも彼もエンジニアとしはかなり破戒的で、反時代的な人間だった。それぞれの感性をごちゃ混ぜにして、目覚ましい彩色になっていく。この色に何と名前をつけよう。

自宅。缶ビールを開ける。それと同時にCDを再生した。新しい音。人が聞けば何と言うだろう。寝ぼけたtedが降りてきた。完成?もうちょっとでね。彼女はトイレを済ませ再び二階へ上がっていった。もうすっかり朝だったが俺はまだ興奮冷めぬ狂夜の中にいるようだった。

ランセンは短気な男だった。

んん、短気を演じている男だった。新宿駅で人を殴って大声を出したり、酔っ払うと他人には手が付けられなかった。俺たちは親友だった。ケンカで負傷した足を引きずりながらライブに来てくれたこともあった。ウイスキーをボトルで空けて鎮痛剤だと笑った。彼は間抜けを演じる癖があったし、俺はその都度賢いふりをした。本当は逆でね、間抜けは俺。やつは上手に生きてた。福岡に住んでいた時は毎週韓国まで行きカジノで金を稼いでた。なんで彼の話を書き始めたのか、俺にも分からないが。

 

一週間が経つ。過ぎたのは時間と、俺の状況も変わっていく。雨の降る20日。昼前に出勤。

18日朝に大阪で大型の地震があった。8時少し前だったか、俺は揺れで目覚める。すぐに豪に連絡をする。大丈夫か?彼は震源地近くに住んでいた。その日俺はSOOZOOでライブだったが、震災の影響でイベントは中止になる。正午からマスタリングに立ち会うためコスモスタジオへ。19時、青天井が完成した。

その日はすぐに家に帰り、防災準備をすることにした。ペットボトルに水道水をためる。風呂にも水を張る。登山で使っていたミニコンロなどもカバンに詰めておいた。夜はリビングに布団を敷いて、この家に住む者三人集まって眠った。

死者が増え続けている。一人ずつ。子どもと老人。まだ増えるだろうか。今なお瓦礫の下で?過去を例にすると、今日あたり本震が来る可能性がある。

6月9日、PAの仕事としてハードな内容の日を終えてNJとseiryuと合流。二杯ほど飲んでからseiryuの車で帰る。

 

家の隣、大きな寺の境内に俺たちは居た。深夜2時くらいだったと思う。自販機でコーヒーを買い、門の柱に寄りかかるようにして座った。俺たち以外に誰もいない。

俺たちは色んな話をした。俗と反俗について。川端康成について。自分の犯した過ちを吐露したりもした。6月だというのに異常なほど寒く、俺は小さく震えていたと思う。

彼が言う。真の反俗者は俗に憧れているはず。俗を忌み嫌う人と反俗者は対極に位置する、と。俺はなるほど確かにと、感心した。思い当たる節がある。俺は自分を反俗的だとは思うが反俗者だとは思えない。俗っぽく出会いと別れを繰り返したし、俗っぽく臆病にもなる。

この国が敗北を認めることから始めたように、俺も自らの内に在る絶念を素直に受け入れることにしたんだ。敗北の認知。相手は誰だ?紛れもない自分さ。

seiryuがルーリードの言葉を教えてくれた

''お前の一日は俺の一週間だ''

助手席から俺はハイタッチしたい気持ちだった。

無題

深夜4時を回った頃、書き始める。

さっきメモ帳に残っていた過去の記録をここに上げてみた。だからどうって、俺も知ったこっちゃない。この一年ほどの記録。まだ他にもあった。またここに書き残すかもしれない。

今夜はずっとDirty Threeを聴いてる。Sometime I forget you're gone.(時々あなたがいないことを忘れる)

あくびが出てきた。少し肌寒い。さっきから部屋の窓を閉めようか悩みながら、結局まだそうしていない。煙草はDOMINGOのナチュラルを吸ってる。

22時半に帰宅し、まず飯を食った。それから机につき、バンドのこと、アイデアを練る必要があることを紙に書き連ねてみる。SOOZOO(俺がもう一つやっているポストパンクバンド。俺はそこではベースを弾いている。)でのことも合わせて考える。

SOOZOOは1日の晩にレコーディングをした。NJによる簡素な録音。でも工夫とアイデアで何とでもなる。

セルフで録ると必然的に奇妙な音像になり、それは俺の好みなものであることが多い。部屋の鳴り、粗悪な音色、商業主義を一切相手にしない音像。世界の片隅で、確かな形有るものを創造する感覚。

こんなことに楽しみを見つけずに、他に何に浮かれていられる?だが気をつけよう。俺はこんな時楽しさで集中が過ぎて、他の人が疲れていることに気付けなかったりする。誰かとモノを作るとは、そのヒトと向き合うことでもある。それを念頭に置いて、全力でやる。

神社がさっきから机の下を行き来している。そして網戸から外を眺めている。今夜も一人で眠るのか?と聞くと一度こっちを見て返事もせずにまた窓の外を見始めた。

俺は身体が冷えてきたので鍋にあった味噌汁を温め小さな茶碗に注いだ。これを飲んで今日はもう眠ろう。

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写真は神社が見ていた目線の先を撮ったものだが、中庭の汚いビニ屋根と面白くもない洗濯物だった。

でもきっと彼女には見えていたんだね、夜明けの空が。

 

これも休日の記録。


7月10日。明日は台風が来るという。

昨夜も雷雨で、俺は窓を開けてその雷音を録音していた。
一度大きなやつが鳴る。録音を見ていた神社は驚いて背中を丸める。

今夜も俺は扇風機の首振りのリズムで眠る。
午前四時を過ぎた頃。
隣の豆腐屋はもう仕事を始めている。
布団に横になり、薄すら明るくなる空を見ている。
目が悪いので空と木々が一緒くたに群青だった。

日曜日は休みだった。
朝早くに起きて図書館へ行った。
沖縄の歴史についての本をパラパラと読み、少し居眠りをする。
それから近くの中華屋でビールと焼きそば。
大雨になりそうだったので一度家に帰り、再び昼寝。
起きると雨は止んでいて、それから自転車で散歩に出た。
吉田山に沿う真如堂の脇を抜け今出川通りに出る。
そこから東へ入り、銀閣寺の方面へ。
哲学の道を進む。
シンとした空気に緑の草花が深く、深く、俺は幻の中にいる気分で進む。
忘れた頃に鮮やかなアジサイが現れ、はっと我に帰るような。妙な散歩だった。
それから丸太町通りまで戻る。
スーパーで買い出しをして再び降りそうだったので家に帰った。

 

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それは雨足のように
気付けば隣町に居て
もう他人事ではない
傘は一人ずつには無い
地面も乾きを知らない
歩むべき道は幾どれかと
誰に尋ねど応えは無い
血の匂いや花の香りがする方へ
わたしたちは進み出す

去年の夏、休日の記録。写真はその時撮ったものをアルバムから探して貼り付けた。

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7月18日。何でもないような一日を記録する。

昼前に起きて立ち呑み屋へ。仕事は休みだった。ビールと酒を一杯ずつ。常連らしき爺さんと店員の会話。
しばらくでしたね。
病気しててな。
煙草はやめない?
煙を鼻から吐きながら爺さんは笑う。

俺は一人だったしすぐに酔う。
店を出て少し商店街を歩いた。
軍物を置く店でワッペンを20枚買う。
服に縫いつけようと思う。
それから鴨川まで行って橋の下で昼寝をした。
眠りに落ちる頃ちょうど豪雨になり、
目が覚めると止んでいた。
電話が鳴る。tedからだった。
何処にいる?
俺は橋の名前を適当に言って、その下にいると応える。
寝ぼけながらだった。
手が生臭い。
飲み屋で貝を食ったんだった。
楊枝を刺して、捻って、身を引きずりだして。
五つの貝の内成功したのは二つだけだった。

俺は自転車に跨り帰路に着くことにした。
雨後の清々しさの中、川を挟んで東へ進む。
紫陽花は枯れ始めていたが。

昨夏、山口県宇部市への遠征の記録。そして今でも鮮明に覚えている冬の入り口を散歩した時のこと。

2017年8月6日、山口は宇部でのライブを終え今は朝の9時。京都に帰ってきた。
Dr.ファイターの家で皆で横になっている。
さっき俺は黙祷をした。ちょうど72年前の今日の悲劇へ。
酷く疲れていて、ぼうっと天窓の光を見ている。

宇部に俺たちを呼んでくれたのは17才の女の子だった。記憶が正しければ彼女が中学生の頃にピアノガールのライブで出会っている。
それから下関大学でライブをした時に初めてちゃんと話をした。
そして今回、自らの企画で俺たちにステージを与えてくれた。
他人の企画にどうのこうの言うつもりはないが、動員は多い訳では無かった。
彼女はそれでも帰り際俺たちに金をくれた。
山口はやはり遠い町。助かる。
それに、気持ちが込もった金だ。
音楽は金じゃない。俺は良く知ってる。
感動的な夜と比べると金なんて糞みたいなもんだ。
だが少し前、とある街のイベントでその主催の人間に俺は裏切られた。
俺からは決してしないが、約束事としての金の話が俺たちの間に事前にあった。
当然。大人同士だもの。
にもかかわらず、俺たちは簡単に裏切られた。
高校生が自腹を切って気持ちを包んでくれたというのに。
音楽の世界だけは社会の縮図であって欲しくないのに。
OK、もう分かった。俺はそういうことも知ってる。
嘘吐きの汚い大人が酔っ払って不義理をするなんてこと、俺はよく知ってる。
諦念にも似た感情が空っ風のように吹く。アホくせぇ。
偽物の情熱が子どもを騙せば戦争の引き金にもなる。

さて、何の話だったっけ。
宇部という街は寂しい感じがするが真夏の似合う街。
潮風のせいか、街のあらゆる箇所が錆びついている。
渋滞気味の関西圏をのろのろと走り抜け、宇部に着いたのは15時だった。
車から降りると猛烈な暑さ。
熱されたアスファルト
そのままリハーサルをやる。俺はサンダルだった。
今回はラッパーの火暗しとW.H.CのBa.ゲンタが同行してくれていた。
皆で缶ビールを飲みながらイベントスタートを待った。
‪若いバンドが一番手を担当する。‬
‪下手くそだが自分達の30分間を何とか楽しいモノにしようとする姿があった。良かった。‬

 

写真は宇部のステージで演奏をする俺たち。この時はまだ豪の加入前で鈴木章吾(ショウちゃん)がベースを弾いていた。

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‪・・・・・‬
‪と、ここまでを書いて数ヶ月が経った。‬
‪今は11月24日。深夜。‬
‪俺はやはり自分と語ってみる。‬
‪なるべく多くの人へなどもう考えない。‬
‪どうにでもなれ。糞ったれたまま変革を信じてやる。‬
‪間違ってるのは自分か世間か、俺には分からん。‬
‪騙し騙しでやってるのは何処のどいつだ。‬
‪いずれ‬じゃなくたった今、全ての辻褄が合わなくなり商業主義はぶっ壊れるよ。
その時お前はどんな顔をする?
アホみたいに口を開けて?
まるで家畜が鳴くみたいだな。
俺はただ人間で在ろうとする。
表面的な連中だらけで今日も明日も明後日も俺には絶望そのもの。
何にも心が通わず、皆んな寂しい顔。
血色は無い。嘘だけが有る。


冬の厳しい寒さがすぐそこまで来た。
昨日散歩の最中、古い民家に一匹の雌犬を見つけた。
彼女を撫でながら飼い主のじいさんと話す。

ばあさんが急に死んで、今はこいつと2人きり。
自分の飯もろくに作れないのに、犬の世話までしなくちゃならん。
じいさんはそう言いながらも彼女を優しく抱き締めていた。
じいさんの家は小さかったが広い畑と大空のせいだった。
俺は久々に美味い空気を胸いっぱいに吸い込んだように思った。