一階に降りて水道水をコップ一杯飲む。
時計には無意識に目がいくもので、昼の12時を少し過ぎていたか。その辺りを記録する。
そのまま台所で洗い物を片付けて、ふと漏れる光に連れられ縁側に出てみる。
''一人つまらない顔に陽射しゆるやかに降り注ぐ''
俺の好きな唄の歌い出しそのままな土曜の正午。
部屋に戻って俺は''あー''とか''うー''とか言って神社の気を引こうとするが彼女は全く反応しない。つまらなそうに眠っている。
後輩のお嫁さんが先日亡くなったという。俺は会ったことの無いヒトだが。まだ結婚して一年も経ってないはずだ。こんなことってあるか。春の夜は人を惑わし哀しみを呼び寄せるんだとさ。
後輩はバンドをやっていて、ギタリストだ。亡くなられて2、3日の内に彼のバンドのイベントがあった。俺は仕事でそこに携わる。
昼間、駐車場で彼と会って最初の方は音楽の話をしていた。もちろん俺からは切り出さない。しばらくすると彼はニヤニヤしながら話す昔からの癖そのままに俺に訃報を話してくれた。
皮肉なほどに真っ青な空の下で。
夜になり彼らのバンドがスタートする。ステージ上には嫁さんの写真を置いて。演奏は晴れやかだった。天国まで届きそうな音。
彼は言う。
生きがいがまだ分からない。でも音楽をやっていて良かった。
自分の人生指針、心の土台になり得るものが2つほどあったとして どちらか一方が破綻しても傾きながら行こうじゃないか。ずぶずぶのぐちゃぐちゃ、春の水溜まりみたいな心象の中を。
誰もが不幸を持っていて、それでも奪い合おうとする人間。新たな不幸が生まれる度に心を痛め、それ故に騙し合う人間。いつまで待ってもこれは不変の事実、この世の。
じゃあどうすれば。どうすれば俺たち。