low days

Kyoto Japan No Fun / PIANOGIRL vo. diary

甲子園浜の記録

2月16日の記録。阪急を乗り継いで正午には甲子園駅に着く。駅から歩き始めたが前進を阻まれる程の強い風。だが、これも浜から吹いていると思えば気持ちが良かった。

途中コンビニでメンチカツとコロッケを買って熱い紅茶で流し込む。物売りに並ぶタイガースのキャラクター。彼の名前をトラッキーとか適当に言ってみた。tedはそれを信じた様子。あとで携帯で調べてみたら本当にトラッキーという名前で俺は一人でウケてた。

この日は西宮に住む友人夫婦の家へ招かれていた。彼らの愛犬を連れて陽の沈む甲子園浜を散歩しようという誘い。

昼ごはんをご馳走になり沢山酒も飲ませてくれた。台所で煙草を吸いながら彼らと古い思い出話をする。

uremaのVo.彗ちゃん。もう10年程の付き合いになるかな。当時彼がアコーディオンを売りたいと言うのを耳にして連絡を取るようになった。それからお互いのバンドで色んな街へ共に演奏をしに行き様々な夜に同じ酒を飲んだ。俺は彼の作る悪夢のように美しい音楽が好きだった。ソロの音源集をよく聴いてたな。面白い音楽だった。たしか白い犬がどうたらっていう曲が俺は好きだった。

彼女は絵描きで、彼女の作品も悪夢のように心躍るものだった。彼女は穏やかに情熱的だ。導火線みたいに喋る。ものごとのほんしつやしんじつへジリジリとオレンジ色の火花を走らせて、人生は自分の為にあるんだよ、といつも瞳の奥でそう叫んでいるようだった。

二人に抱かれた白銀の小さな犬が尻尾を振ってる。呼吸は荒い。あらゆる感情を爆発させるように。人間もこれくらい全身で表現が出来たら良いのにと思う。''浜''という名前で生きていく彼(彼女だったか?)には向かい風や足を取られる砂など全く問題無いように見えた。

夕陽を何度も美しいと思いたい。顎までチャックを上げて目深に帽子を被りこんな夕陽を何度も見たいと思った。浜は駆けていく。手綱が伸び切るまで。冷たい風の中を。俺たちも寒い寒いと言いながら走った。寒い寒い、と大きな笑い声で。

通りを隔てて取り残されたように光る自販機が見える。吐く煙がその虹色を墨色に変えていた。2月22日の深夜、昼間にドーナツを二個食っただけだからか、腹がグーグー鳴ってる。

今夜自宅は真暗闇の静けさだ。さっきまで紫蘇の焼酎を炭酸で流し込んでは、あることないこと声だけデカく騒ぎ立てていた。何が面白かったかまるで思い出せない。覚えてなくて良い気もする。クソ真面目な顔をしていた昼間の俺も忘れてしまおう。ラモの言葉を借りるなら''I remember nothing'' 

こうして書き残すのは何の為なのか、自分でも分からない。俺はデジタルを信じていないのでいつか一冊の本にしてみても良いと思ってたり。まぁその気になったらそうしよう。今22時半を前に一日中降った雨の残りが水滴としてベランダに落ちる。その音だけを聞いて。早く眠りたい。実はもう3月の26日なんだ。